-Uri Column- / Comics


Prince of Dawn Land.

読了しました。たぶん4回目〜5回目。何度読み直しても「う〜ん」ってうなされてしまいます。
今から20年も前の作品なんですね。いやぁ、「残る作品」ってのはあるもんです。

※今回、以下の記述は『日出処の天子』を読んだ人を対象としています。一部作品内容に触れる箇所もありますので、まだ読んでいない方、これから読むのを楽しみにしている方は、読まないことをオススメします。変な言い方ですけど。

さて、この作品を語るポイントの一つが、「成就せぬ思慕」。
物語は、大きく3つの“恋愛”を中心に進行します。

1.厩戸王子〜毛人(えみし)
2.刀自古郎女〜毛人
3.毛人〜布都姫。

この3つが“骨格”となって、そこにさながらアラベスクのようにさまざまなエピソードが重なりながら物語として構築されていくわけです。

で、この3つ。すべて「道ならぬ恋」です。

まず、「1.」は同性愛...ってとっちゃうと、論点がずれちゃいますから注意です。

日本史において「寵童」や「衆道」「男色」といった、いわゆるホモ・セクシュアルは、特に古代〜戦国時代あたりまでは一つの風習として認められていたようなんです(信長と蘭丸の例を出すまでもなく)
だから本当は、王子の毛人に対する感情は、そんなに隠したり卑下したりするものではなかったはず。
(いや、もちろんそんなにおおっぴらにできるものではないのかもしれませんが、少なくともこっそりと「王子としての権力」を行使することはできたはず。)

むしろ注目すべきは、王子の精神形成を決定づける要素としての、自他同格化に対する希求ですよね。
それは作品ラスト部分で、王子と毛人の「議論」として会話されています。

つまり「1.」のケースは、同性であることではなく、「同一化することに対する不自然性の発生」という文脈で、「道ならぬ恋」と定義されるべきなのではないかと。
(このあたり、どうしても『BANANA FISH』のアッシュと英二を、あるいは『銀河英雄伝説』におけるラインハルトとキルヒアイスをだぶらせてしまう方も多いはず。それはまた次の機会に。)

次に、「2.」は近親相姦。
これはもう理屈抜きで、見たまんまの「道ならぬ恋」であります。

ただ惜しむらくは、なぜ刀自古郎女が同父同母の兄である毛人に恋愛感情を抱くようになったのか、そのあたりの描写がなされていません。物語が始まると同時に、読者は刀自古郎女の兄に対する「雰囲気」をつきつけられてしまう。

もちろん、刀自古郎女が物部の郎党に乱暴されるというエピソードも盛り込まれていますが、それは兄への恋愛感情を強める原因にはなっても、発生の原因ではありません。

非常にうがった見方をさせていただければ、以上のことから、この設定には「作者の都合」が介入しているのではないかと考えてしまいました。

つまり、厩戸王子と刀自古郎女の息子である「山背大兄」が、実は毛人の実子であった、だから毛人は山背大兄の即位を妨害する行動に出た、という、歴史上の“理由付け”のために挿入されたエピソードなのではないでしょうか。

今回いろいろサイトをまわって調べてみたんですが、毛人が山背大兄王の即位を妨害した理由って、よくわからないらしいです。少なくとも定説がない。

で、この『日出処の天子』を読んだ歴史の先生が、「非常に合理的に説明されている」と評価したとか。
(もちろんすべてがフィクションであることを認めた上での、そのフィクション性を評価した、ということですが。)

ここで先ほどの「うがった見方」になるんですが、つまり作者は本作品のストーリーを構成する段階で、なんとかして毛人が山背大兄王の即位を妨害した理由を考えなければならなくなった。

でなければ、「毛人と厩戸王子」の作品世界における緊密さと、史実との間に整合性がとれなくなってしまうから。

どうもそのあたりの発想から、「じゃぁ山背大兄が実は王子の息子ではなかったことにしちゃえばいいんだ」と考え、毛人と刀自古郎女の近親相姦を思いついたのではないか。

それが先述した「作者の都合」です。

最後の「3.」ですが、これは「1.」を成立させないために設定された恋愛だと思います。

作者としては、最終的に毛人と厩戸王子を“訣別”させなければなりません。(これも「史実との整合性」がその理由です。)

「1.」を成立させないためには、毛人に「女性の恋愛対象」を設けるのが一番手っ取り早く、わかりやすく、そしてドラマチック。

本作品は、これら「1.」「2.」「3.」がそれぞれ非常にうまく結びつき、読者の感情移入を喚起するテーマとして機能することになります。

やっぱり、「残る作品」っていうのはよくできているんですねぇ。

う〜ん、ちょっと舌足らずで、もっときちんと説明しなければならないところもあるんですが、とりあえず以上。

『日出処の天子』1〜8
山岸涼子/角川書店・あすかコミックスペシャル「山岸涼子全集1〜8」

Last Update : 2001/07/22

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