-Uri Column- / Owarai


M-1 2002。

 今年も「M-1」が開催された。
 以下、思いつきの感想として。

 コンテストやコンクールなどにおいて、“順番”が大きなウェイトを占めていることは周知の事実であるが、今年の「M-1」も出番の順が勝敗の行方を微妙に左右したように思われる。

 去年、優勝の最有力候補といわれていた「中川家」の出番がトップになるという、一種の波乱が起きた。「中川家」に最初に点数がついてしまえば、実質的に他の組は「中川家」を“追う”ことになる。これは他の組にとっても、そして「中川家」にとっても大きな圧力となり、演じる漫才にも微妙に、そして時には多大に影響を与えたという。

 今年の一番手は、「ハリガネロック」だった。奇しくも彼らは去年「中川家」と覇をかけて決勝戦に挑んでやぶれ、準優勝に甘んじた。当然今年の優勝には、他の組以上にこだわりがあったのではないか。そんな彼らがトップで登場するというのも、一つの波乱といえるかもしれない。

 彼らの漫才は“勢い”に凝縮される。ステージに登場するとともにエネルギーを放出し、その放出されたエネルギーは会場で増幅され、さらに彼らのパワーとなってしゃべりや動きをヒートアップさせる。同じようなタイプの漫才コンビとして、若手なら「ビッキーズ」や「キングコング」「シャンプーハット」、ベテラン(かどうかの判断は難しいが)では「西川のりお・よしお」や往年の「ザ・ぼんち」があげられるであろう。そして大きな仕切り板で区切ったとき、おそらく「横山やすし・西川きよし」もこのタイプに入ることになる。

 が、彼らのタイプにとっては、とくに今回のような大きなステージでの“一番手”という順番は少々酷であったかもしれない。彼らのステージにかける“思い”の強さを受け入れるには会場全体がまだあたたまりきっていない状態で、彼らのしゃべりも動きも、どこか空回りしているように思われた。

 そして、二番手に「ますだおかだ」が登場した。結成10年目を迎える(つまり「M-1」の出場権は今年が最後である)彼らもまた、優勝はなんとしてでも成し遂げなければならない命題であった。

 「ますだおかだ」の漫才は一見正統派に見えるが、そこには極めて良質のペーソスとシニカルな風刺が織り込まれており、現在の社会を徹底して“おちょくる”(大阪弁で“からかう”の意)ことにかけてはおそらく東西一であろう。たとえば「ハイヒール」や「里見まさと・亀山房代」、「海原やすよ・ともこ」、そして「トミーズ」あたりにかろうじて同型の漫才を求められるが、しかし多分に異質の成分を含んでおり、むしろ「桂文珍」あたりの創作落語に近いものがあるかもしれない。

 結論から言ってしまえば、彼らが今年の「M-1」を制覇した。もう一つの本命である「フットボールアワー」に僅差で勝てたのは、今年が最後のチャンスであるという事情に対する審査員の同情票が集まったのではないか、というのは穿ちすぎであろう。彼らは勝つべくして勝った。

 さて、その「フットボールアワー」であるが、実は彼らこそ正統派漫才の真骨頂を見せつける“正調上方漫才”を引き継ぐコンビである。おそろしいくらいに基本と、そして“従来のパターン”に忠実な進行、その中にちりばめられる意表をつくボケというスタイルをとる漫才コンビは、「オール阪神・巨人」をはじめ枚挙に遑(いとま)がない。彼らの“新しいオールドスタイル”とも言える漫才を見たとき、たとえば「中田ダイマル・ラケット」や「夢路いとし喜味こいし」(どちらも「ダイラケ師匠」「いとこい師匠」と呼んだ方がしっくりくるが)を彷彿としてしまうのは、どうしようもないことなのかもしれない。

 ちなみに敢えて言及する。「笑い飯」は、テレビで何度か漫才(と言えるかどうかは別として)を見たことがあるが、ある意味で“いまどき”のコンビであり、それ以上でも以下でもない。それはつまり彼らが“ネタはおもしろいけれど漫才はヘタ”で、さらにそれを持ち味にしてしまっているという一種の開き直り、もしくは唯我独尊的なスタイルに対して“評価不能”であるということであって、決して評価の対象とならない、ということではない。

 決勝には「ますだおかだ」「フットボールアワー」「笑い飯」の三組が残ったが、ここでもまた“順番”が小さな歯車を回した。

 一番が「フットボールアワー」、二番が「笑い飯」、そして最後が「ますだおかだ」となり、有り体に言ってしまえばキャリアも実力も及ばない「笑い飯」を間に挟んでの、「フットボールアワー」と「ますだおかだ」の実質的な一騎打ちという構図になった。

 一番手は、どうしても不利になる。出番までの待ち時間が短く、ネタを合わせたりあるいは他の演者の出来を見てネタを選ぶというような戦術がとれない。もちろん、気持ちレベルでの余裕にも大きな差が出るであろう。逆に、一番手で大きな笑いをとってしまえば出番を控えている後続組にプレッシャーをあたえることができる、というメリットもあるが、それはあくまでも結果論の範疇で扱う要素である。

 「笑い飯」にとって、短時間で二本のネタは厳しすぎたかもしれない。一本目と同じような展開のネタを繰り返しただけで、どんなに彼らに肯定的な見方をしても、フロックで残った決勝戦という印象をぬぐえなかった。

 それが、「ますだおかだ」に幸いしたかどうかは、わからない。「フットボールアワー」の直後であれば、彼らの漫才の出来は変わっていたかもしれないが、しかし「ますだおかだ」の不敵ともいえる本番強さは、直前の「笑い飯」の出来がどうであろうと変わらなかったようにも思える。

 むしろ「フットボールアワー」が「ますだおかだ」の後だったら、結果にも微妙な影響を与えたかもしれない。それは二組の漫才の出来不出来、優劣への影響ではなく、審査員や客席という“見る側”の反応への影響であって、たとえば人間は最後に受けた感覚の方が印象に残りやすいといった程度の、ごくわずかなものであろう。けれど、実力が拮抗している場合、その“ごくわずかなもの”がときとして大きなウェイトを占めることがある。

 果たして“順番”がどれほど影響したのか、それはもちろん誰にもわからない。ただ、優勝の盾を手にした増田の目から流れていた涙が、彼らのほんとうの気持ちを雄弁に物語っていた。

[付記]
「ますだおかだ」の背の高い方、岡田は、10月後半にポリープの手術を受けていたらしい。

<参考URL>
MASUDAOKADA OFFICIAL HOME PAGE
「ますだおかだぁ〜」

Last Update : 2002/12/30

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