漫画のこと。

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『海皇紀』

何らかの組織・団体に属する者にとって、理想のリーダー像はとても興味のある話題である。
だから、と言っていいだろう、数多くの漫画作品における登場人物が、理想のリーダー像として描かれてきた。
たとえば、それぞれの部下たちをまとめるとともに互いに丁々発止の頭脳戦を繰り広げた『機動警察パトレイバー』の後藤隊長と内海課長。
たとえば、たった一人であっという間に新宿のアンダーグラウンドを牛耳り、国家権力や広域暴力団と対等の勝負にまで持ち込み、さらには飲み込んでしまった『HEAT』の唐沢辰巳。
あるいは驚異的な知能指数と戦闘力を身につけ、コルシカマフィアやチャイニーズマフィアを相手に奮戦した『BANANA FISH』のアッシュ・リンクス。
まったく、数え上がればキリがない。

言うまでもなく、一言で「リーダー」と言ってもその条件には実に様々な要因が含まれている。
ずば抜けて頭が良く、先を見通し、適時に適材を適所に配置し、突発事にも柔軟に対応する冷静さと判断力を併せ持つなど、極めてオールラウンドな能力が要求される。
しかし、やはり一番重要なのはそれら様々な要因によって構築された部下との「信頼」の一言に尽きる。

『海皇紀』のファン・ガンマ・ビゼンもまた、まぎれもなく理想のリーダーの一人に数えられるだろう。
神業的な操船技術といい、大局を見渡し先手を打つ戦略性といい、純粋な意味での喧嘩強さといい、ちょっとそりゃできすぎなんじゃないの?とまで言いたくなるくらい、上司になってほしい人物に描かれている。
一見意表をつき、真意を測りかねる言動の裏には、豊富な知識と緻密な計算に裏付けられた高度な戦略が隠されていて、常に読者を「なるほど、そう来るか!」と感嘆させる。加えて自己を韜晦し、常にほほえみを絶やさず人を煙に巻く。まさに「底が知れん男」である。

彼の持ち船である「影船八番艦」のクルーは、彼を信頼する以上にどうしようもなく彼が「好き」なのであって、ある一人が彼を「尊敬」しているのを仲間が揶揄するくらい、彼とクルーの間にある敷居は低い。そう、話しやすさや親しみやすさもまた、リーダーのとても重要な資質なのだろう。

そう考えると、ファンがどうしても坂本竜馬と重なって見えてしまう。
竜馬もまた、日本の未来を見通し、海援隊を率いて幕府や薩長と対峙しつつ連携し、日本という国を大きく動かした原動力の一人であった。
もちろんそれらの仕事が可能だったのは、竜馬が極めて「魅力のある人物」だったからだ。

またファンだけではなく、武将としての理想像であるロン、参謀としての理想像であるアル・レオニス、闘将(というよりも武人?)としての理想像サノオ、副官としての理想像ニッカなどなど、とにかく「理想像」のオンパレードであるのに、それぞれのキャラクターがきちんと魅力を輝かせ、いきいきと活躍しているのも、本作の清涼感に大きく寄与している。

『海皇紀』はすでに23巻が年末に発売されたけれど、物語はまだまだ先が見えない(いや、多少は見えているけどここでは敢えて触れない)展開で、佳境に入りかけているのかどうかすら判断に迷う。
ただ、リーダーのあるべき姿を具象した人物の活躍は、ほぼ全編が海と船を舞台にしているおおらかさも相まって、とても気持ちのよい読後感を与えてくれる。良作である。

『海皇紀(23)』川原 正敏/講談社 [Amazon]
author : uriu | 過去録 | comments (0) | trackbacks (0)

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